本当にそんなんで勝負する気ですか、先輩?

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 数十分後。 「まぁ、いいだろう。それより俺は君たちを助けに来たのだ」田中(蘊蓄王(仮))の自信たっぷりの話はまだまだ終わる気配がない。 「助けに―――ねぇ」吉田は佐藤と顔を見合わす。ふたりの顔は半信半疑だ。 「君たち。あれを見たまえ!」田中(略)はビシッという効果音が出るのではないかと思うようないきおいでグランドの一点を指さす。それに合わせて眼鏡をくいっとやる。お気に入りのポーズなのだろう。  田中(略)が指さす先は走り幅跳びのフィールドだった。  佐々木は富樫先輩を思い出す。  去年の7月、はじめてのインターハイ支部大会。  富樫先輩とは中学の時から陸上部で先輩後輩の間柄であり、走り幅跳びの競技でライバル関係にあった。俺には才能があったのか知らないが、練習をせずとも上級生たちと張り合うことができた。同じ中学の富樫先輩は先輩ではあったものの、俺は一度も負けたことがなかった。  天才型の俺と努力型の富樫先輩。体格は175cmとほぼ同じ。  体格が同じでも、タイプが違うので練習方法は違う。泥臭い先輩の練習方法を見て俺は完全になめていた。バカにしていたのだ。  陸上競技は生まれ持った才能がすべて。  これが俺の認識だった。  だから努力型の先輩はどんなに頑張っても俺には勝てない。そう思っていた。あの日までは。  あの日の支部大会の決勝。富樫先輩も勝ち進んでいた。  正直、残るとは思っていなかった。万年予選落ち。そこが定位置のような人だったから。  決勝では6位までに入れば県大会に出場できる。跳躍のチャンスは3回。  余裕で県大会に行けると思っていた。  しかし、その考えは甘かった。  結果は3回ともファール。  富樫先輩が6位ギリギリ入賞して県大会へと駒を進めた。  はじめて先輩に負けた日になった。  
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