本当にそんなんで勝負する気ですか、先輩?

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「―――と、いうわけだ。だから、俺はこのふたりに最後の舞台をプレゼントすることにしたのだ!」  ここで「どういうわけだ?」というツッコみをしてはいけない。絶対に。 「そうか。わかった」佐々木は覚悟を決めた。ゾンビになったとは言えど、富樫先輩は富樫先輩だ。  このままではいつか先輩はゾンビとして駆除されてしまう。  そうなると先輩の勝ち逃げになる。本当か? 本当に「勝ち逃げ」なのか?  いや、そうではない。ライバルとしてまだ勝負できていないのだから。  あの日、先輩が俺を倒すために積んできたその努力を俺は無碍にしたのだ。  あの時、3回ファールをしなければ。  あの時、走り幅跳びに真摯に向き合っていれば。  もう、そんな後悔をしても遅い。  もう、先輩と走り幅跳びで勝負することはできないのだ。今日という日を除いては。  佐々木は思う、これは天啓であると。  ここで勝負しなくては先輩が先に進めない―――いや先輩じゃない。  むしろ俺だ。俺が先に進めない。ここで先輩と勝負しなくては俺が先に進めないのだ。 「田中。俺、富樫先輩と勝負するよ」佐々木の心は決まった。モヤモヤの類は一切ない。  しかし、疑問がひとつだけ残る。  あの松明は何? あれいるの?   まぁ、あそこまでは跳ばないよ。届きませんよ。  高校生の最高記録って7m67cmだし。  そもそも踏切版から砂場まで2mあるから松明までは10mはある。  でも、圧迫感っていうのかな? ハンパなくない?  でも「田中、お前ちょっと跳んでみろよ」とは言わない。不毛な時間が増えるだけだから。 「よし! 佐々木くん! よく言ってくれた!」田中(略)は腕を組み、満足そうに大きく頷く。 「では、これより鹿庭羽高校ビーチフラッグ大会決勝戦を開催する!」  え? ビーチフラッグ? 走り幅跳びじゃないの?  いやいや。危ない。危ない。ツッコみは厳禁なのだ。  しかし、田中(略)の話には、もはや誰もついていけていない。
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