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美容への第一歩
町には今、数百人の町民が暮らしている。
家も増え、村の生活から町の生活に変わり商売が生まれる。
商人がこの町で商売するなら宿屋が建つ。
宿屋が有れば、飯屋が建つ。
飯屋が有れば人が行き交い、その通り道には他の店が建つ。
他の店が建つなら物作りが産まれる。
物作りには職人が要た方が、より良い物が売られる。
町で商売が頻発すると領主は町に訪れる様になり、職人の需要を察知する。
そして、職人が町に住み始めると町は街へと発展して行く。
さて、この町にはまだ職人は居ない。
町での商売が其所まで頻発していないから領主もまだ訪れていない。
けれども、商売が頻発するのは時間の問題だろう。
何故なら私が不便を失くし現代生活を取り戻す為に動き出したからだ。
この前誕生日を向かえた私は8才になった。
女の子の成長は男の子の成長よりも早い。
そして、女の子は大人の女性に変わるのも早い。
大人の女性に必要な要素は何か?
美容である。
髪を伸ばし、服を着飾り、肌や爪にも神経を使う。
私の祝福が肉体労働から解放されるものだったので、より美容に重きを置ける環境になっていた。
そして、美容において一番の大敵は何かと問われたなら答えは汚れである。
顔立ちや髪質がどれだけ良くても汚れたままでは美しくは見られない。
生活魔法なる、汚れを消し去る方法が有るみたいだけれど、それは魔力が有って魔法が使えればこそ。
魔力が少ない村民、町民は物理的に汚れを落とすしかない。
汚れを落とせる素材、それは石鹸。
現代では苛性ソーダで作っているけれど、危険物を使うわけにはいかないし、何処に有るかも解らない。
古代では灰汁で石鹸を作っていたので、その方法でやってみる。
作物の食べられない部分を焼いて灰にする。
私の祝福『湧き水』を鍋に入れて沸かしてから、灰を桶に移して熱湯を注いで一晩放置。
灰汁を取り出して、鍋に牛脂と灰汁を混ぜて煮る。
適当な大きさの箱を用意して流し込む。
固まったら取り出して完成。
現代の硬い石鹸に比べたらかなり柔らかいが、汚れを落とせるなら別に構わない。
灰汁は元々汚れを落とす事に利用されていたけれど、石鹸は村から町に発展した今になっても作られていなかった。
もしかしたら、街や城下町には有るかもしれないが、この町に有るもので作れるなら作ってしまえば特産品になる。
そしてトリートメントに使えそうな植物性脂肪油を色々試して、オリーブオイルに似た植物を見つける。
それに卵黄と花の密を混ぜてトリートメントを作る。
後は先に石鹸で髪を洗い、乾かしてからトリートメントで髪に潤いを与えて少し時間を置き、最後に又洗い流して完了。
薄汚れていた私の髪は、艶やかで綺麗な髪へと変貌した。
最初は稀有な目で見ていた母は、あまりの変貌ぶりに驚愕して自らも使う様になり、数量限定で売ってみれば、町中の女性達が買い求めたのは言うまでもない。
その浸透速度と綺麗になった話は直ぐに噂として領主の耳に入り、初めて町に訪れる事となる。
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