村人転生

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

村人転生

 私は転生者だ。  何故か前世の記憶が残ったまま生まれ変わった。  但し、剣と魔法のファンタジー世界に。  私の両親は服装から見ても解る、単なる村人だ。  木造の小ぢんまりとした建物に、入り口近くに農具が置かれて朝早くから父は畑仕事に出掛けている。  母は幼い私の世話と、家事をこなして殆んど家の中で過ごす。  数日に一度父は畑仕事を休み、私と母を連れて外に出る。  村人は全部で30人程、家の数は家畜小屋を除くとたったの8件。  村長の家が一番大きく、月に一度近況を話し合い、夜中に畑や家畜が魔物に荒らされていれば冒険者を雇い退治して貰う。  魔物は基本的に森の中で潜み、数が増えると森から出て来て畑の作物や家畜を食べ荒らす。  太陽の下では活発に動かず、月の下では活発に動き森からも希に出て来る。  冒険者を雇うには街に赴き、冒険者ギルドに依頼を出さなければならない。  依頼料は街の領主が賄ってくれるため、負担は少ない。  領主には代わりとして毎月畑で取れる作物と、育てた家畜を税として納めている。  街へは馬車を乗りこなせる村人が持ち回りで、収穫した作物と屠殺して食肉に加工した家畜を売りに行く。  今回は私達家族が街に赴く番だった。  私の誕生日が過ぎて5才に成っていたので、街に有る教会で祝福を受ける為、家族全員で街に行く。  去年は隣の家族に5才を向かえた男子が居たので、父が馬車で連れて行き教会で祝福を受けた。  村で生まれた子供は殆んど魔力を持たないし、祝福も大したことないものばかりだ。  父の祝福は『器用』、母の祝福は『家事』。  隣の家族の男子は『豊作』。  『豊作』は村全体で恩恵が有ったので、去年から少しだけ裕福な暮らしが出来る様になった。  そして私が祝福で授かったものは『湧き水』だった。  私は転生して初めて異世界の神様に感謝した。  村では、川から水を汲み畑や家畜、洗濯や飲み水として利用していたので、風呂として利用する事は無かった。  しかし、前世の記憶を持つ身として全身をお湯に浸かる文化に慣れ親しんでいた私には、濡らした手拭いで体を拭くだけの生活は苦行でしかなかった。  それが祝福を受けた日から毎日、『湧き水』で出した水を家事で生ずる火で沸かして貰い、桶一杯にした所で私が入り風呂を満喫した。  初めは毎日風呂に入る私を奇異な目で見ていた両親も、私のにやけた顔に興味を引かれて大人サイズの桶を用意して入った所、風呂の虜になった。  そして、村人達も私の『湧き水』によって川に汲みに行く手間が省け、代わりに伐採と薪割りに労力を割く様になり、一家に一台風呂場が増設されたのだった。  ちなみに村長の家には大人数が入れる木製の大浴槽が造られた。  その後、増えた魔物討伐の依頼を受けた冒険者がその大浴槽に入ってからは、女性の冒険者が依頼を受ける頻度が増えた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!