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12.確信犯?
彼がいるのは、コートの一番端。フリースローではなく、そこから反対のゴールポストを見据えている。悠花は思わず言葉を失い、見つめてしまった。他の部員も手を止めている。
「おい、蓮」
司の制止より早く、蓮は背筋を伸ばし綺麗に跳ねる。長い手を高くあげ、手を軽く曲げ背中を逸らしてボールを投げる。
速いのにゆっくりとした動きに見えた。敵はいない、誰も防ぐものはいない。ボールはきれいな放物線を描き、そしてリングを回り――けれど網には入らず落ちた。
部員達も練習の手を止めて見つめていた。
「あ、惜しい」
彼が悔し気に呟いた時、副部長の矢沢の叱責する声が聞こえてきた。
「おい、大滝!!」
「やべ、ていうか、姫。ワンチャン!」
「しません!」
もう一度という蓮に悠花は叫んで、身を翻した。バックヤードの薄暗く狭い螺旋階段を駆け下り、壇上の隣のドアを押し開ける。蓮が追いつく前に、体育館の扉をすり抜ける。後ろから声が聞こえてくる。
「蓮。部活前でもコートの上で勝手は許さない」
「――っていうかさ、司。なんで部活以外に口出しすんの?」
微かに、司と蓮の会話が聞こえてくる。司に蓮を止めて欲しいのかはよくわからない。それも違う気がするけれど。
「――てか、司。機嫌悪いよね。邪魔されたから?」
そんな声を背に逃げ出した。
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