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初めて人を好きになった。
オーマイベアトリーチェ、俺の最愛の女性。
君と出会ったのは、ブルーノ親父のトラットリアだった。
俺の気に入りの奥の席で、トマトソースがその魅惑的な口元や豊満な胸を赤く染めるのを厭わず、ブルスケッタを貪る野性的な姿に興味を惹かれた。
「よう、ベイビー、相席かまわないか? 仕事のあとにこの席でメナブレアラガーをやるのが俺のルーティーンなんだ」
俺の仕事は頭脳と肉体を使う仕事だ。別段苦労はしていないが、ひとつの仕事をやり終えたあと、このザワザワした小さな店で、一人で祝杯を上げるのが小さな癒しであり、次の仕事の成功へのゲン担ぎでもあった。
「知ってるわ。ヴァレリオ・サルトーリ。あなたと話してみたくてこの席で待っていたのよ」
「なんだって? どこで俺のことを」
「ヴァレリオ、メナブレアおまちどう」
椅子の背に手をかけ、腰を落としたところでブルーノ親父がビールを持ってきた。一本しか頼んでいないのに両手に持って、俺にウインクしてきやがる。
なるほど親父か、俺の情報を彼女に教えたのは。
まあいい、健康的な小麦色の肌にダークブロンドの長い髪、目尻が上がった瞳はグレイだがブルーが少し残っている。身体は優美な丸みがあって、組んだ足はすらりと長い。
正直言って好みだ。
「出会いに乾杯」
そう言って、親父が持ってきたメナブレアの一本を彼女に渡す。
彼女はトマトソースが付いた唇を舌でねろりと拭うと、「グラッチェ」と受け取り、飾り気なく喉を鳴らして味わった。
「アタシはベアトリーチェよ。最近北部から引っ越して来たの。このトラットリアが北部の家庭料理を出してるって聞いて、通うようになったの」
「へぇ、そうか。親父の料理は旨いからな」
俺も故郷は北部だ。だがおくびにも出さずに答える。
「そうなの。トマトやオリーブも好きだけど、クリームやチーズみたいな濃厚なものを、本能が求めちゃうのよ」
上目遣いに俺を見て、尖ったヒールの足先で脛をつついてくる。俺は常に最高級のスーツで武装しているが、色っぽい女にそうされるのは嫌いじゃない。
それに、俺を見つめながら「濃厚なものを求める」と言ってきやがる。いい誘い文句だ。
ブルーノ親父の店でいくつか料理を食べ、他愛もない会話をしたあと、俺は彼女を自分の部屋に招待した。
といっても、一所に留まるのが嫌いで巣を張らない俺だから、今連泊しているホテルだが。
「少し古いけど、落ち着くホテルね。それにあなたの部屋はとっておきの部屋だわ。ずいぶん稼ぎがいいのね」
「まあな」
言いながら、ベアトリーチェの腰に手を回して室内に引き込み、口付けようとした。その途端。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
彼女に突き飛ばされた。
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