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24 あったかい
「だから、わかるか? 私はずっとこどくだとおもっていたのだ」
「それが何でナッツとレーズンになるのかしら?」
ダンジョンが半壊してしまった後、カイルとリコと救助隊隊員――ハーキス、ウォーレン、ニーナ、キャス、そしてフィルの全員はこぞってカイル行きつけの酒場に集った。
いつも誰かしら本部で救助要請に待機するのでこうして全員、救助用オーブ未所持で酒場で集まれるのはなかなかあるものではない。
ダンジョン変形は通常3日ほどかかるため、その時ばかりは「閉店」するのだが、こうして全員で揃うのは珍しかった。
既に料理にはあらかた手を付けられ、各々勝手なペースで酒を飲んでいる。
フィルは飲めないのでジュース片手に大人の話を興味津々で、かつ時折顔を赤らめつつ聞いていた。
リコは酒で失敗しないよう細心の注意を払っていたはずなのだが、いたずら心を起こしたハーキスがこっそりグラスを入れ替えたことですっかり出来上がっていた。
リコも中身が酒とわかった時点でやめればいいものを、コアに会ったことで不完全なパズルが完成して緩んでしまったらしい。
カイルに「いいのか?」と言われたにも関わらず「今日くらいはいい」とハーキスが面白がって勧めるグラスを飲み干してしまったのだ。
そしてとろんと座った目とふわふわした口調、ぐでぐでの体になったのを見たニーナが「胡桃」について尋ねたのだ。
リコは残った料理の中から付け合わせを1個摘まんだ。
「これがなっつ」
「ミニトマトだけどな」
「こっちがれーずん」
「パセリだけどな」
「こどくなまおうは なかまをさがしていた。とことことこ」
「ちょっと、トマト潰れたわよ?」
力加減のわからなくなったリコは、とことこ歩かせたトマトをテーブルに押し付け潰してしまった。ハーキスはひたすら「可愛い、可愛い」と繰り返している。
「まおうはしんだ」
しょんぼりするリコの前からひょいっと潰れた魔王を取り上げたカイルは、そのままパクっと食べると、別の皿からリボンの形をした揚げパスタ、ナストロをリコの手元に置いた。
「転生」
「まおうはゆうしゃにてんせいして なかまをさがした。とことことこ」
リコの遊びはそのまま眺めつつ、ハーキスがカイルにしみじみ言った。
「しっかしなあ。隊長普通じゃないって思うことは多々あったけど、まさかの勇者とはなあ。この顔で」
「あ? 顔は関係ないだろ」
「あるっすよ。勇者は多くの民の憧れなんだから、伝承通り優男じゃないと」
「そんな伝承ねえよ」
「かいるは やさしい。かおはひげがいやだ」
「それは悪かったな」
とことこ冒険していたナストロの勇者をカリっと食べたリコは「おいしい」と言うとカイルを押しのけ皿に手を伸ばした。
カイルが目の前に皿を移動してやると、1個ずつ小動物のようにつまみ始めた。
ハーキスがまた小さく「かわっ」とこぼす。
「これで隊長が明日めっちゃ身なり整えてたらウケる」
「ひげはいらない」
「いらないわね」
「いらないにゃ~」
「評判悪っ!? おいウォーレンお前今静かに頷いただろ!?」
こんな席でも黙ったままのウォーレンは知らない顔してジョッキを空けると、これまた黙って店員に掲げた。少ししておかわりが運ばれてきた。
「にあってない」
「汚いわ」
「オッサンにゃ~」
「ざらざらだ」
「悪人面が増すわね」
「ただの面倒くさがりにゃ~」
女性3人にそう言われハーキスが堪えようともせずに笑う。
カイルは青筋でも立てそうな顔になると、隣りでふわふわしているリコの顔を掴んだ。
そして酒で上気したリコの頬に髭面を寄せると、そのままスリスリ…じょりじょり攻撃をする。
「ひゃあ きたない!」
「それ本気の汚いだろう!? そんな? そんなか!?」
「リコちゃんが穢される!」
リコが一生懸命顔についた汚れを取るかのように擦るのを見て、ニーナとキャスは同情の目を向け、フィルは身だしなみには気を付けようと思った。
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