番外編 奈央のチョコレート工場

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番外編 奈央のチョコレート工場

「奈央、今年は誰に上げるの?」 「え〜……テスト期間だしチョコ作るのめんどくさい」 ペンを握っていた。 「えぇっと……」 なんてこった。 問題:次の文を翻訳しなさい 英文『I'll give you chocolate to express my feelings』 そっか……そうなのか。チョコレートって気持ちを伝えるためのものかぁ。 「お母さんやっぱ作る」 お母さんは少し嬉しそうだった。 「そ?誰に渡すの〜?」 私は指をおる。 「まず森川さんでしょ?んでいつもあげてる赤村に…そして…」 ……そして? あれ私はあと誰に渡すつもりだったんだ? 「奈央、赤村くんに渡すってことはそういうこと?」 お母さんは指ハートを向けてくる。 「違う違うw赤村はそんなんじゃないじゃん?w」 お母さんは残念そうにうつむいた。いや……これわざとか? 「そう…お母さんてっきり奈央は赤村くんのことを……」 いや、本当にそんなんじゃないから。 「他は?」 お母さんは顔を私の方に向けた。 「あ、あとクラスメイトの子」 「ふぅ〜ん?」 少し笑った。 なぜ名前が言えなかったのだろう。佐々木隼人…って。 次の日〜 「さぁ量産するわよ…」 お母さんは不吉な笑みを浮かべていた。 市販の板チョコレートを溶かす! 型に流し込む! なんかナッツとかアラザンとか入れる! 固める! チョコペンで落書き! (ちなみに私は祝典曲とムージィカのキャラクターをデフォルメしたものを書いている) また固める! ラッピングする! 「……できたぁっあ…」 時計を見るともう5時になっていた。 「奈央今から行くの?」 スニーカを履いた私を見てお母さんは少し心配そうな顔を浮かべた。 「うん、バレンタインは明日だけど明日テスト本番だし」 チョコを入れたバックを持ってドアを開けた。 「行ってきます」 まずは一番近い赤村ん家だ。 ピンポーン。 「はい……って奈央!?」 インターフォン越しに少し驚いた赤村の声がした。 「ちょっと待ってな」 しばらくして玄関ドアが開く。 「どしたん?」 「いや明日バレンタインだから一応チョコ上げるわ」 バックから取り出し、まるでそこら辺の石ころでも渡すように赤村の手に乗せる。 チョコペンで赤村の好きなアクオ(祝典曲とムージィカのキャラクターだ)と、大きく『義理♡』と書かれたチョコレート。 「おい!wかるすぎだろwww」 赤村はチョコレートを受け取り、大切なもののように手のひらでそっと包んだ。 「んまぁ…ありがとな」 なんだ…その反応。 「んでこれからまた誰かに渡しに行くん?俺ん家が一番近いし」 よくわかっている。 「えっと…森川ん家と」 ここで少しためらってしまった。ただの義理なのに。だから言っても恥ずかしいとか無いはずなのに。 「……S氏ん家」 と、赤村はすごく大きな声で言った。 「え!?S氏にも渡すん?」 な…絶対勘違い…された… 「いや渡すけどそういうあれではなくてですね……」 「おーい、S氏!お前ちょっと来い」 赤村は急に部屋に向かって叫びだした。 は…!?S氏いるんですか……??心の準備が…いや別にただチョコ渡すだけだけど!! 「ん…?何ゆう……」 相変わらず眠そうな顔をこすりながら彼はドアまで歩いてくる。 カジュアルな私服だ。 「なんか勧誘?……って武井さんッ!?」 「なんかチョコ渡したいらしいから呼んだ」 赤村はニヤニヤしながら言った。 「え…!?俺に?それって…??」 私は慌ててバックから取り出しS氏に渡す。 今度は生贄でも差し出すような感じになってしまった。 またしても『義理♡』と書かれたチョコ。 そしてもう一つにはサッカーボールが書かれている。 彼はそれを受け取ると残念そうな顔になった。 だがすぐに顔をキラキラさせる。 「これ、俺が食っていいの!?ありがと武井さん!!」 ……ッ…。何だその可愛い笑顔は……。 「そーゆーことだからッ…じゃね」 バックを握りしめ玄関ドアから走り出す。 角を曲がり一通り赤村の家が見えなくなったところで足を止めた。 「はぁ…はぁ……」 心臓がバクバク言っている。 なんでだ。ただチョコを渡しただけなのに…それだけで逃げ出すなんてどうかしている。 「森川さん……チョコ明日でいいかな…」 軽くつぶやいた声に夕日がキラリと光った。 森川さんの代わりに返事をしてくれたようであった。 奈央のチョコレート工場 完
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