『もう一人の人面犬』

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『もう一人の人面犬』

 「絶対に、絶対に倍にして返すからな!」  人面犬は何故かしつこく言う。  「別にいいですよ。倍にして返さなくても」  と言いつつも、心の中で期待する俺。  「恩を受けたら必ず返す。妖精としての鉄則やで。ほな、兄ちゃん、またな!」  人面犬はそう言うと、俺に背中を向けそそくさと神社の裏山に向かって歩きだした。  俺も自分の車に戻ろうと数歩歩いた時、出会ってからずっと気になってたことがあったのを思い出す。俺は急いで引き返し、人面犬の後を追った。  「あの!」  人面犬はビックリしたのか、身体をビクッとさせ、静かにこちらに振り返る。  「なんや、兄ちゃん。まだなんか用があるんか?」  「名前……お名前とかあるんですか?」 「わしか? て、兄ちゃん、人に名前聞く時は自分から名乗らんといけんって親から教わらんかったんか?」  確かにそうだ。て、人じゃないくせに。  「そうでしたね。僕の名前は田……」  「わしの名前はドロンジョや! 良い名前やろ!」  「あ……ドロンジョ……さんですか。僕の名前は田……」  「わしの人の名前覚えるの苦手なんや。だから、兄ちゃんは兄ちゃんでええわ! ほな、またな!」  そう言うと人面犬はまた神社の裏山に向かって歩きだした。そして気がつくと暗闇の中へと姿を消した。
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