『もう一人の人面犬』

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 「せやせや。妖狐は触れた生き物にならなんにでも化けれる妖怪なんや。動物はもちろん、人間にも化けれるし、妖怪にも、妖精にも化けることができる」  ドロンジョの言葉に俺は頭が真っ白になる。  「なるほど。となると、ドロンジョさんは妖狐に触られてしまったということですか?」  「せやねん。あれは三週間前だったか、わしが蕎麦屋で食い逃げして、コンビニの駐車場で昼寝しとる時にいきなり妖狐が現れてな。『妖精か、珍しいな、気に入った』とか小言ほざいてわしの腹をいきなり触ってきたんや。わしが呆気に取られている隙に、ポンっとわしそっくりの人面犬に化けて走り去っていったんやで」  「なるほど。妖狐はドロンジョさんに化けて……て、食い逃げしたら駄目じゃないですか!」  「まあまあ、その話はおいおい。さらに、あいつの恐ろしいところは化けた相手の一切の記憶や人格、性癖まで完全にコピーするところやねん」  「記憶や人格も……ですか?」  「せやねん。だから、徳川家康に貰った小判の在りかも、あいつにバレてしもうたんや」  「もしかして、全部盗まれたんですか?」   「せやせや。とある神社の倉庫の地下室に隠してたんやけど……見に行ったら、もぬけの殻やったわ。あいつのせいでわしはショックで心療内科に通う羽目になったんや。許せへん」  「それは大変でしたね……て、妖怪も心療内科に通えるんですか?」  「妖精や! 姉ちゃん、何回言わすねん!」
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