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「アホくさ。期待して損したわ」
愚痴と一緒に煙草の煙を吐き捨てる。そして、自分の車まで引き返そうと歩き出した……その時だ。
「おい、ここは禁煙だぞ!」
突然の人の声に心臓に痛みが走る。驚きのあまり咥えていた煙草も落としてしまった。俺は周りを見渡す。だが、何処にも人の姿はない。
「気のせいか……」
疲れで幻聴まで聞こえてきたのだろうか。俺はとっさに落としてしまった煙草を何度も踏みつけ、火が完全に消えたのを確認し、再び自分の車に引き返そうとした。
「アホ! ポイ捨てするな!」
再び心臓に痛みが走る。これは幻聴ではない。今はっきりと人の声が聞こえた。俺は周りを見渡した。が、何処にも人の姿はない。周りを隅々まで見回すも人っ子一人いない。
「何処を見とんねん! ここや、ここ!」
声のするほうに視線を向けた。食事を終えたパグが身体の向きを変え、こっちを見ている。
いや。まさか、そんな馬鹿な。
俺はゆっくりとパグに近づいてみた。パグはハァハァ言いながら舌を出し、尻尾を振っている。
パグの目の前まで近づいた時、全身に鳥肌が立ってしまった。
それは……俺の知っているパグではなかった。
人の……顔だ。人の顔をしたパグだ。中年の、中年の男の顔をした人面犬だ。
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