『奢り』

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『奢り』

 「ぎゃあああ!」  俺は恐怖のあまりとっさに叫んでしまった。  「なんやねん、お前! 失礼なやつやな!」  人面犬がキレだす。俺は驚きのあまり尻を地面についてしまう。  「なに人の顔見て腰抜かしとんねん!」  尻もちをついて動くことができない俺にゆっくりと人面犬が近づいてくる。  俺の喉に噛みつくつもりなのか。  それとも殺して全ての肉を食べるつもりなのか。  俺は死にたくないと思いながらも覚悟を決め、目を閉じた。  ブチュ。  なんだか生暖かいものが唇全体を覆う。ゆっくりと目を開けると人面犬が俺の唇を奪っていた。 「うええええ!」  あまりの気持ち悪さに『うええええ!』と叫んでしまった。小学生の時、休憩時間に同級生の男の子と正面からぶつかってお互いの唇が当たってしまった時のことを思い出してしまった。  「なにするんだよ! 気持ち悪い!」  「なにって。お前さんが目を瞑るから合図だと思ってキスしたんやろが」  こいつ、なに言ってるんだ。いや、それより、こいつは一体何者なんだ。  俺は唇を服の袖でゴシゴシ拭きながら人面犬の顔を見つめた。  「それより兄ちゃん、大丈夫か? ちゃんと立てれるか?」  化け物に似合わず以外に優しい言葉をかけてくる。  「え? まあ、一応……」  俺はゆっくりと人面犬を見つめながら立ち上がった。
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