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プロローグ「X=?」
──家庭教師とは。文字通り、生徒の家庭で勉強を教える教師のことである。
我々が為すべき業務は、それ以上でも、それ以下でもない。教え子を指導し、合格に導く。ただそれだけが、家庭教師に課されたミッションだ。
「いやー、相変わらず優作センセーの授業は分かりやすいね!」
「はは、こう見えて俺も講師業は三年目だからな。経験に裏付けられた実力というヤツさ」
そう。たとえ、このように女子高生のお宅に上がり込むことがあっても、勘違いをしてはいけない。俺が彼女の部屋に入り、こうして授業を行えているのは、ひとえに『家庭教師』という看板を背負っているが故のことなのだ。
時たま、「生徒がかわいいJKだったら超神バイトじゃん!」などとのたまう輩も居るが、そういうタイプのヤツは家庭教師に向いていない。下心を持って手を出そうものなら、最後。『家庭教師』という肩書きは『変態教師』というレッテルに変わり、社会的に最期を迎えることとなろう。
「あ、そろそろ授業終わりだね。なーんか、あっという間だったなぁ」
「はは、それだけ集中してたってことだろ? 良いことじゃないか」
なので。俺は神に誓って宣言しよう。
「えへへ、そうかな?」
その無邪気な笑顔も、サラリときめ細やかな黒髪も、プクリと膨らんだ唇も、宝石のように澄んだ瞳も……何もかも全てが、俺の理性を崩壊させるまでには至らない、と。
仮に心が揺れ動こうとも、鋼の精神で理性を取り戻す。恋心を抱くなど、もっての外。この美少女──神楽坂(かぐらざか)繭(まゆ)──と家庭教師契約を結んだ瞬間、俺はそう誓ったのだ。
ああ、だというのに。
「じゃあ、授業も終わったことだし、ここからは恋愛教師として、アタシが今日のセンセーを採点してあげるね?」
「お、おう」
──なぜ俺たちは、互いに頬を染め合っているのだろうか。
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