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気分転換に、夜風に当たろうよ。
そう持ち掛けられた俺は、特に断る理由も見当たらなかったため、楓とベランダに出ることとなった。
秋の夜長の外気は、ほどよくひんやり心地よい。鈴虫のリンリンという音色も相まって、最近働かせすぎていた脳味噌が、少しずつリフレッシュされていくような感覚になる。
「ほれ、優の分だよっ」
柵に手を掛けてぼんやりと街並みを眺めていると、急にアルミ缶を投げ渡された。
「うおっ、ととと」
慌てつつも、なんとか両手で手中に収める。
「えへへ、ナイスキャーッチ」
「なにがナイスキャッチだ。つーか……これ、酒じゃねぇか」
缶に描かれているのはデカデカとした『生』の文字。どう見ても、ビールである。
「コレ、どっから持ってきたんだよ」
「あー、さっき少し部屋に戻って、冷蔵庫から取ってきたの。まあ、細かいこたぁ気にせず、今日は飲みんさい。ほれ、グイっと」
「……まあ、今日くらいは付き合ってやるけどよ」
普段は全くと言っていいほど、酒は飲まない。そもそも酒は、そんなに好きでもない。
「じゃあ、乾杯」
だが、なんとなく。今日だけは、飲みたい気分だった。
「いぇい、乾杯!!」
カツリと互いのビールを触れさせ、タブを引っ張って缶を開栓。
プシュッと空気が抜けて、泡が雲のように溢れだした。
「「やばい、こぼれる!!」」
二人同時に、慌てて口で泡を掬う。
「かぁー、うまいっ!」
「にげぇ!」
漏れ出た味の感想は、真反対であった。
「クソ。やっぱビールはダメだな。未だに良さがわからん」
「ふふふ、優はお子様舌だなぁ。苦いのが良いんじゃん」
ゴクリ、またゴクリと。楓は更にアルコールを摂取していく。
「ほんとオッサンみたいだな、お前……」
「あーん? 失敬なぁ。私はまだピチピチの二十一歳なんだぞーう?」
「酔い回るの早いっつの!!」
頬を朱に染め、早速ほろ酔い状態の楓。思いの外、酒には強くないようだ。
「へっへん。よーし、早速私がユウサックンのお悩みをサクッっと解決してあげるぞぉ。ほれほれ、ちゃっちゃと私に話してみそ?」
「へいへい、わーったわーった」
だが、そんな楓のおかげで気楽に話せるようになったというのもまた、悔しいことに事実だった。
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