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【2】 密かな想い
①
~2年後~
「ところで藤川、彼女出来た?」
「出来てないですよ。その話はいいですって」
さっきまで仕事の愚痴で盛り上がっていたのに急に話題を変えられ亮太はうんざりして答えた。
「なんで? お前もてるのに誰か好きな人でもいるの?」
「いえ、そんな人いませんよー」
藤川亮太はお箸で玉子をつつきながら言い返した。今朝は一気に夏から冬かと思わせるくらいに急激に冷え込んだ。つい先日までワイシャツの袖をまくっていたのに今朝の寒さでクローゼットの奥からコートを引っ張りだしてきた。先輩の斉藤が出社してくると「寒い~」を連発した。こんな時はおでんに限るとなと言うと亮太と目が合うなり「今夜予定空けとけよ」と言ってきた。結局俺と後輩の三人で会社の近くにあるおでん居酒屋にくることになった。
「お前もうすぐ30歳じゃなかった? 結婚願望はないの?」
斉藤が言った。
亮太の5年先輩の斉藤は係長で27歳の時に結婚して五歳と三歳の男の子がいた。
「結婚は良い人がいればしたいと思いますけど、斉藤さんは結婚して良かったですか? あっ、それと俺まだ28歳なので 笑」
「あれ、お前まだ28だっけ? 結婚なぁ……。まぁ、子供は可愛いけどな」
「あははは、子供だけですか? 奥さんとはどうですか?」
「最初は良かったけどな。だんだん俺に遠慮がなくなってきたからなー。俺のことなんて今やATMくらいにしか思ってないよ 笑。藤川、奥さんは価値観が一緒の人にしとけよ。価値観が違うと窮屈な人生になるぞ」
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