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~5年前~
仕事が終わり家に向かうサラリーマン。これから飲みに行く笑顔の女性たち。少し前まで羨ましく見えたこの光景も来年からは私も仲間入りだと思うと安堵した。待合せのお店に約束の時間より早くついてしまった結子は街ゆく人々をお店の前で眺めていた。その時、手を上げながら走ってくる俊介が目に入った。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこだよ」
「そっか、じゃー入ろう」と言った俊介は前を歩いてお店のドアを開けた。席に着くと二人はビールを二つ注文した。そして俊介は弾んだ声で話し始めた。
「無事に就職決まって良かったよー。本当にいち時は就職浪人しないといけないかと思った」
「本当だよねー。私もどうなるかと思ったけどお互い何とか希望の業界に決まって良かったね」
結子は第一希望の内定は貰えなかったが希望していた業界の大手食品会社から内定が貰えることが出来た。俊介も希望していた都銀はダメだったが大手地銀に就職が決まった。
「何度も金融関係を諦めて別の業界にしようか悩んだけど、平川が希望の食品会社を諦めないで頑張っている姿を見て俺も頑張ることができた。平川のおかげだよ 笑。ありがとうな」
「そんなお礼なんて言われることないよ。 佐山君が諦めないで頑張ったからだよ」
「いやいや、いつも不思議に凹んでる時に平川から〈頑張ってる?〉ってメールがくるんだよな。どこかで見てる?って思ったよ 笑。で、凹んでる癖に俺もかっこつけて『頑張ってるよ』って返信してた。でも、一度〈就活なんてもうどうでもいい。ってなったけど佐山君も頑張ってるから私ももう少し頑張ってみまーす〉ってきたことがあって、あの時は平川の為に頑張ろうって勝手に思ったよ」
「そんなメールしたっけなー?」
「覚えてないの?」
俊介はすねたふりをした。
「会社入ったらいろんなことあるんだろうなぁ。。。」
「もぉー。せっかく就職決まったのに不安になること言わないでよ」
「あははは、ごめんごめん。就活も終わったし今度一緒に遊びに行かない?」
「うーん、じゃー森山さんと川口君も誘ってみようよ?」
森山と川口は同窓会にもきていた友達だ。
「ん? 二人じゃダメかな?」
「うーん、四人じゃ嫌? 遊びに行くなら四人の方が楽しいかなって思って……」
結子には付き合って二年経つ彼氏がいた。彼氏以外の男の人と二人で会わないとかいう考えはなかったが、俊介のメールや言葉から私への好意を感じていたので二人だけで遊びに行かない方がいいかなと思った。
「佐山君は彼女いないの?」
「いないよ。平川は彼氏いるの?」
「いるよ」
「えっ……。そうなんだ。全然知らなかった……。」
「うん。今まで聞かれたことなかったし、自分からわざわざ言うのも変かなと思って」
「うん……そうなんだ」
「……。」
俊介は暫く口数が少なくなったが食事が終わって別れ際には何かあったら連絡しろよと微笑んでくれた。それからたまに元気か? と連絡をくれるようになり返信はするようにしていた。
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