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宿を決め、直ぐに聞き込み捜査を始めることにするも……。
「おれ様はチカの所へ行く。宿の場所を教えてやらないとならねぇし、ダイダラボッチのことも伝えとくよ。……お前ら、あんま無茶すんなよ」
ヤタはそう言って飛び上がると、賑わう旅籠町の上を滑空していった。
「お、これは残ったオレ達だけでがんばる系? よーし、アゲていこー!」
元気よく歩み出す八裂は、商船に乗っていた時とまるで様子が違う。
彼は狭貫國で出会った少女・四散の死に大きなショックを受ける。彼女に辛く当たっていた八裂は、それを謝ることも出来ずに死別。それが心に暗い影を落とした。
だが今の少年は明るく元気で、四散の死を乗り越えているように亀代には見える。そしてそんな八裂の胸中は、
──チカは絶対に人間になる。それをオレは相棒として助けるんだ。その為には前を向いて、出来ることをするだけっしょ!
といったもので、血河が人間になることをまだ望んでいると確信している風である。
亀代にはセンジンである血河の心が分からない。業病のことがあり、血河は心の臓を奪うことに消極的になっているのではと感じていたのだが……八裂はそうとは考えていないらしい。
血河と八裂。きっと互いに心の声が聞こえずとも、その心を分かり合うことが出来ている。亀代はそれを感心すると同時に思ってしまう。
もし、他人の心の声が聞こえなくなったら……きっと私は今以上に臆病者の引っ込み思案になるかもしれない
他人が何を考えているか、それが分からないのはきっと怖いことだ
漠然とした不安に駆られる自分に気がつき、少女は小さく首を横に振る。
ヒトアラズが生まれてこない世の中を目指しているはずなのに、その自分がヒトアラズの異能を失うのが怖いだなんてまるで本末転倒だ。
そもそも人の心の声を聞くのは卑劣な行為だ。こんな異能はなくなった方がいい。こんな異能があるから家族は────
「亀代さん?」
目の前にひょこりと凪丸の顔が現れ、亀代は驚き思考を止める。
「な、なんでしょうか?」
「顔色が優れないように見えたので。調査の方は俺とハチさんに任せて、お休みになっていては?」
「大丈夫です。考え事をしていただけです、ありがとうございます」
頭を下げ、八裂の後を追う。
会ったばかりの凪丸ですら、亀代の様子がおかしいことを直ぐに察している。もし異能を失った時、果たして自分にそれが出来るのかと少女は懸念を抱くのだった。
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