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境の町での聞き込みは順調だった。
「おれは見たぜ、沖合いに立ってるダイダラボッチをよ! 雲の隙間から差す頼りない月光に照らされたあれは、白い体をしていたぜ」
「アタシも見たわ。遠目に見ても33間くらいあるように見えたわよ」
「何をするわけでもなく、沖に立っている……ただそれだけじゃ。そしていつの間にかいなくなる。あやつが何をしたいのかは分からん」
「わたしもね、夜にこっそりと家を抜け出して見たわ。あのダイダラボッチがもし、この町の方へ来たらって考えるととても怖くなっちゃったの。みんなね、本当はとっても気味悪がってるのよ」
続々と集まる情報を整理すると、ダイダラボッチは夜の沖合に現れる。体の色は白色で、大きさは推定33間。町に危害を加えるような様子はなく、ただ立っているだけ。だがその巨大にして強大な存在に、境の住人達は不安を抱き怯えているようだ。
「これだけ目撃証言が集まるということは、ダイダラボッチってのはどうやら本当らしいですね」
そう言う凪丸の表情が険いのは、ダイダラボッチの存在を懐疑的に思っているからだ。あまりに突拍子もないことなので無理もない。
凪丸が腕を組んでうーんと唸っていると、背後で八裂の声がする。
「わわ、亀ちん大丈夫そ? やっぱり人混みキツい系??」
亀代の名前が出されたので慌てて振り返ると、彼女は眉を寄せて右手で頭を押さえていた。
「大丈夫ですよ、ハチくん。いつもよりほんの少し、騒がしいだけですから」
凪丸は一体何のことだろうと思ったが、はっと気がつく。亀代は人の心を声として聞くことが出来る。ならば人の多く集まる所では否が応でも沢山の声を拾ってしまう。
先程は考え事をしていたと言っていたが、沢山の声を聞き過ぎて本当に体調が悪いのかもしれない。
「場所を変えて大寺さんへ行きましょう。あそこは会合衆の会所なので更に詳しい情報が集まっているかもしれません」
そうして少年らは人の多い大小路筋から離れて行った。
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