伍・ダイダラボッチ

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 境の町での聞き込みは順調だった。 「おれは見たぜ、沖合いに立ってるダイダラボッチをよ! 雲の隙間から差す頼りない月光に照らされたあれは、白い体をしていたぜ」 「アタシも見たわ。遠目に見ても33間(60m)くらいあるように見えたわよ」 「何をするわけでもなく、沖に立っている……ただそれだけじゃ。そしていつの間にかいなくなる。あやつが何をしたいのかは分からん」 「わたしもね、夜にこっそりと家を抜け出して見たわ。あのダイダラボッチがもし、この町の方へ来たらって考えるととても怖くなっちゃったの。みんなね、本当はとっても気味悪がってるのよ」  続々と集まる情報を整理すると、ダイダラボッチは夜の沖合に現れる。体の色は白色で、大きさは推定33間(60m)。町に危害を加えるような様子はなく、ただ立っているだけ。だがその巨大にして強大な存在に、境の住人達は不安を抱き怯えているようだ。 「これだけ目撃証言が集まるということは、ダイダラボッチってのはどうやら本当らしいですね」  そう言う凪丸の表情が険いのは、ダイダラボッチの存在を懐疑的に思っているからだ。あまりに突拍子もないことなので無理もない。  凪丸が腕を組んでうーんと唸っていると、背後で八裂の声がする。 「わわ、亀ちん大丈夫そ? やっぱり人混みキツい系??」  亀代の名前が出されたので慌てて振り返ると、彼女は眉を寄せて右手で頭を押さえていた。 「大丈夫ですよ、ハチくん。いつもよりほんの少し、騒がしいだけですから」  凪丸は一体何のことだろうと思ったが、はっと気がつく。亀代は人の心を声として聞くことが出来る。ならば人の多く集まる所では否が応でも沢山の声を拾ってしまう。  先程は考え事をしていたと言っていたが、沢山の声を聞き過ぎて本当に体調が悪いのかもしれない。 「場所を変えて大寺(オオテラ)さんへ行きましょう。あそこは会合衆(エゴウシュウ)の会所なので更に詳しい情報が集まっているかもしれません」  そうして少年らは人の多い大小路筋(シンボルロード)から離れて行った。
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