震えが止まらない

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 まただ。  私は振り向いた。  もう何度目かわからない。  けど、ゾッと背筋を舐めまわすような悪寒が止まらない。  手も何故か、小刻みにずっと震えている。  風邪かな、と思って熱を測ってみたけど  特に何もなかった。  タッタッタッタ……  背後から音が聞こえた。  ああ、なんだ、ランニングしている人か。  私を追い抜いて通り過ぎていく。  また聞こえた。  同じ音。  その足音は私の不安を駆り立てる。  私は思わず走った。  振り向いた。  誰もいない。  でも、誰かに追いかけられているような気分になる。  私は何に追われている?  何がこんなに怖いの?  息切れが激しい。  めまいがする。  頭痛がする。  胸元が、苦しい。  ――気づけば、1日が終わって、家にいた。  今日私は何をしていたのだろうか。  思い出せない。  記憶がごちゃまぜだ。  ただ、家が、すごく落ち着く。  私はこんなことがあったと  後日友人に相談した。  職場の人にも相談した。  みんな口をそろえて言う。 『気にしすぎなんじゃない?』  それを言われるとさらに息苦しくなる。  もうどうしようもなく辛い。  何もしてないし、怖いことも、辛いこともないのに  何故か毎日が辛い気持ちと恐ろしい不安で満たされる。  ある日仕事の休憩中に震えが止まらなくなった。  手がまともに物を持てないぐらい震える。  涙まで、止まらなくなった。 「病院に聞いてみたら?」  私はその言葉に従った。  神経内科にとりあえず行ってみた。 「どんな時に震えますか?」  どんな時。  歩いているとき。  駅に向かうとき。  建物が見えた時。  建物に入ってからもダメで。  そして家だと……大丈夫。 「なるほど。はい、大体わかりました」  あなたの症状は、精神的なものだね。  原因は――  医師に答えを示された私は、妙に納得した。  喉にずっとつまっていた鉛がストンと胃袋に落ちてきたような、それぐらい重い音がしそうな納得感だった。  私は受診料を払いながら思った。  家に帰ったら、退職届を書こう
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