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イサミ
おばあちゃんのことはわりと好きだ。
だからお母さんに「世話代わるよ」って言ってるのは本心。豪雪地帯のこの辺は冬期の部活は禁止だし、中一にもなれば、放課後だからってそんなにしょっちゅう誰かと遊ぶわけじゃない。
おばあちゃんが壊れてしまってからもう随分たつ。面倒をみるお母さんは疲れ切っていた。
おばあちゃんとお母さん、両方の役に立てるなら介護くらい全然やる。
最初は遠慮していたお母さんもだんだん「じゃあ少しだけ」と言うようになった。
お母さん相手だと我儘放題のおばあちゃんも二人だけの時はお行儀がいい。
目の前にいるのが孫だとはわからず、いつも「あんた誰」と聞かれるのは少し寂しいけれど、それも徐々に慣れてきた。
「やだ、敦子ちゃんはどこ?あんた誰?」
「イサミだよ」
「ああ、平沢の」
おばあちゃんがうなずく。
平沢はうちの名字だ。この辺りの風習で、子供は家に伝わる決まった名前をつけられる。
うちは代々イサミで、もし下の子がいればオサミ、マサミって感じ。他の家もそうだから、名前がわかればどこの子かわかる。
十五歳になったら子供は新しく自分の名前をつけるしきたりで、元気な頃のおばあちゃんは「私は下の斎藤の生まれだからホクトだよ」と言っていた。
よそから嫁いできたお母さんに旧名、この辺りでは幼名というけど、それはない。
お母さんの名前は千里だ。敦子はおばあちゃんの姉の名前。二人きりの時、おばあちゃんがそう教えてくれた。
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