イサミ

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「ねえ、ホクトちゃんはどうしてお母さんを敦子って呼ぶの?」  自分を少女だと思い込むおばあちゃんは、もうおばあちゃんと呼んでも返事をしない。イサミと呼ぶ時も孫ではなく、自分と同年代の平沢イサミ、おそらくは既に亡くなった夫、つまりはうちのおじいちゃんの子供時代を思い浮かべている気がする。 「やだ、イサミったら。お母さんだなんて、敦子ちゃんは姉よ」 「姉?」 「そうだよ、一番上の。七つも離れてるけど、お母さんじゃないよ」 「そうなんだ、ごめん」 「いいの、うちは兄弟が多いからね。私は末っ子だし、将来はそのまま末子って名前にしろってみんなからかうの」  そういって笑うおばあちゃんの顔は本当の子供みたいに無垢だ。そもそも十五で実際に末子という名前にしたくらい素直な人である。病気になっていなければきっと今も穏やかな日々を過ごしていただろう。
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