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「敦子ちゃんはとても綺麗で頭も良いの、自慢の姉よ」
おばあちゃんの姉。
たくさんいるおばあちゃんの兄弟を思い返しても敦子という名前は聞いたことがない。お父さんも知らないだろう。お母さんを「敦子」と呼ぶおばあちゃんを見て、一回目の奥さんと間違えてると思い込んで狼狽してたくらいだから。
「敦子ちゃんは今どうしてるの」
「敦子ちゃんはお嫁に……」
にこにこ話すおばあちゃんがはたと口をつぐむ。
「敦子ちゃんは十五歳でお嫁にいった、いったはずよね」
「ふうん、早く結婚したんだ。やっぱ綺麗だと引く手あまたなのかな」
「敦子ちゃんはお嫁に……どこへ嫁いだんだったかしら」
「どうしたの、ホクトちゃん」
「敦子ちゃん、待って、敦子ちゃん」
突然、小刻みにおばあちゃんが震え出す。
「敦子ちゃん、どこ?待って、行かないで、敦子ちゃん」おばあちゃんが叫び出した。悲鳴を聞きつけたお母さんが襖を開けて飛び込んでくる。
「お母さん」
「大丈夫、あとはお母さんがやるから。イサミは向こうに行きなさい」
そういったお母さんは猛然と暴れるおばあちゃんを抱きしめた。
「敦子ちゃん、ごめんね、行かないで、敦子ちゃん」と繰り返すおばあちゃんを「大丈夫、大丈夫」とお母さんは宥めすかす。
静かな部屋で二人の小さい背中は硬く強張る。震えるおばあちゃんは暗く窓の外を見つめていた。
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