ホクト

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ホクト

 ホマレちゃんはすごくきれいだ。  妹だから言うんじゃない。  村の人だって、みんな村一番の美少女は斎藤ホマレだと言っている。  それにホマレちゃんはすごく優しい。私たち兄弟にとっては二年前に亡くなったお母さん代わりだ。  ホマレちゃんは怒らない。お料理も上手だし、お裁縫も得意。勉強だってできるから、女の子だけど、十五になってちゃんとした名前がついたら町の学校に通うことも決まっている。  これはすごいことだ。  村は冬になると雪にすっぽり包まれてしまうから、学校に行くには町で下宿するしかない。うちは貧乏だから、そのお金は村の人たちが少しずつ出してくれることになった。  それくらいの歳なら村の女の子はお嫁に行くのが普通なのに。男の子ならまだしも、女の子のホマレちゃんにそうしてあげるなんて村で初めてのことだった。  だけど私はさみしい。  私は兄弟の末っ子で、一番ホマレちゃんにべったりだから。お布団だって一緒に寝ているのに、春になったらひとりで眠らなければならないなんて。  一緒のお布団にくるまって私のお腹をとんとんするホマレちゃんに「さみしいよ」と言っても「大丈夫よ、ホクトちゃんもう七歳じゃない」ってホマレちゃんは笑う。  そう言われたって大丈夫じゃない。毎晩「さみしい」「無理」「行かないで」と愚図った挙句、泣き出しさえする私にとうとう疲れ果てたのだろう。ある晩、ホマレちゃんが声を潜めた。
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