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思い出したら泣けてきた。
涙を流しながら、誤魔化すようにバットを振った。
どうして別れてしまったんだろう。
遊園地のコーヒーカップみたいに、同じことばかりぐるぐると考えていた。三半規管が弱いので、吐きそうになった。
二打席目を終えると、さすがに寒いからもう止めてくれと楓太から抗議された。気分爽快にはならなかったが、仕方がないので止めた。
時間を見ようとスマホを取り出すと、母親からLINEでメッセージが届いていた。LINEを開くと『誕生日おめでとう』のスタンプがひとつだけぽんと表示された。
「忘れてた。俺、今日誕生日やった」
「え、マジで? おめでとう!」
今日は雫の誕生日でもある。楓太の祝福を聞きながら、雫は今頃あの彼氏とお祝いしているんだろうなと思った。雫と彼氏が誕生日までのカウントダウンでもしている間、自分は思い出に浸って泣きながら一心不乱にバットを振っていたのかと思うと、なんだかやりきれなかった。
人生に逆転満塁ホームランなどありはしない。
どうしても風俗に連れて行こうとする楓太とは駅前で別れ、善は一人でしこたま飲んでから帰った。
『そんなに飲んだら顔浮腫んでぶちゃいくになるよ』
酔っぱらった頭に雫の声が聞こえた気がして、また少し泣いた。
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