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「なんやねん。なんもせえへんわ。俺、彼女おるし」
引き留めたいわけでも、下心があるわけでもなかった。
知らない人でもないし、帰り道に何かあったのでは寝覚めが悪い。単なる親切心のつもりで提案しただけだった。
「へえ。リンダくん、彼女いるんだぁ」
冷やかすようににんまりとしながら、雫は言った。
安心させるつもりで言っただけだったが、すぐに後悔した。一年経ったとはいえ、無神経ではないか。雫は何も気づいていないようだが、サランラップのような罪悪感に体中が包まれた。
「だったら、元カノ泊めるのはヤバくない?」
「ヤバいかヤバくないかで言うたらヤバいけど、こんな夜中に血まみれの子一人で放り出されへんし、しゃあないやん」
「相変わらず優しいんだね。でも、わたしが彼女だったら、彼氏が家に元カノ泊めるなんて嫌だから、やっぱり遠慮する」
確かに、いくら自分に疚しい気持ちがないとしても、元カノを家に泊めたことを今カノである侑咲が知ったら、普通に浮気したと思うだろう。嫉妬深い彼女が怒り狂うことは目に見えている。どんな言い訳も謝罪も通用しないだろう。恐らく、こうして部屋に二人きりでいることさえ、許されないはずだ。
ここは素直に雫の助言に従うことにする。
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