アブダクション

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 玄関に向かうのはこの短時間で三度目だが、雫は奇妙なことに気がついた。 「ねえ、待って。わたしの靴ないんだけど。隠した?」 「隠すか!」  色々と驚き過ぎて、強めにツッコんだ。  あろうことか、玄関に雫の靴がない。裸足で歩いてきたというのだろうか。窓から入った可能性も考えたが、アパートの二階までよじ登ってくるのはジャッキー・チェンでもない限り不可能に思えた。 「てかさぁ、俺とクラゲっちの家ってそんな近所ちゃうよな」 「うん。電車で三駅だったかな」 「やんな。結構、距離あるよな。夢遊病やったとして、裸足でここまでの距離歩いてこれんかな。リアルにUFO乗ってきたんちゃうん、自分」 「いよいよその線が濃厚になってきたね。ヤバい。もしかしたら、スマホも盗まれたのかな」  笑いごとでもないが、真夜中に元カノが宇宙人にアブダクションされた説で一頻り盛り上がった。好みの話題とはいえ、久々に再会した元カノとする話か、これ。善は内心、苦笑した。
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