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もし、お墓参りに行くことになったら、雫は来るだろうか――邪なことを考えている自分に嫌気がさした。そんな気持ちで、お世話になった人の墓参りなど行くべきではない。
スマホを取り出し、YouTubeを開く。
そして、『19Hz』の動画を再生した。
動画の秒数は確かに進んでいるが、何も聴こえない。
それでも、19Hzの音を流していたら、幽体離脱した雫が来てくれるのではないかという、気持ちの悪いストーカー的な歪んだ希望を捨てられずにいる。
一年半ほど前は自分から別れたいと思ったくせに、今さら虫がよすぎることは承知している。世の中には、どうがんばっても元通りにならないことがあるのだ。
自分のことを客観的に見て、雫がもう一度好きになってくれる男だとは思わない。だからといって、どうすれば彼女好みの男になれるのかもわからない。
『この際だからはっきり言います。わたしはリンダくんとヨリを戻したいなんて思ったことは一度もありません!』
あの夜の雫の言葉が、古い鍋の焦げのように脳みそに張り付いて剥がれない。
情けなくも少しだけ泣いた。
こんな夜はどうしようもなく雫に会いたくなる。
夢でもいいから会いたい――強く願って目を閉じた。
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