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ホームランは打てない
出向は早ければ九月、遅くても新年度からと言われていたが、急に退職する人がいるとのことで年明け早々出向することになった。
これまで土日祝が休みだった善は、カフェレストランのシフト勤務にまだ慣れない。
人間の体は不思議なもので、無意識に生活のリズムが刻まれている。頭で考えるよりも先に、引っ越す前の駅で電車を降りてしまうことが何度かあった。
予定が合うときしか会うことのなかった友人たちとも休みが合わなくなり、平日の休みは意味のない寝溜めをするかゲームをするかの二択という切ない生活を送っている。
慣れないのは生活リズムだけではない。仕事も今までのデスクワークとはまるで違っていた。店の雰囲気こそおしゃれでゆったりとした時間が流れている風ではあるが、裏では日々地味な闘いの連続であった。
学生の頃にレストランでアルバイトをした経験はあるが、当時はもっとのんきに働いていた。店の売り上げとか経費なんて考えたこともなく、給料が多くもらえたらそれでいいと思っていた。
そのせいか、レストラン勤務は意外と楽しいという記憶があったので、社員として働くのは想像した以上に大変だった。それなりに客が入っている店でも、経営していくのはかなり厳しいものだ。そこそこ人気の店が突然閉店するのもわかる気がした。
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