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遠慮気兼ねなく話せる友人との時間ほど、ストレスが解消できるものもない。
食事を終え、会計に向かうとちょうどカップルが一組、会計をしているところだった。男性側が支払いをしている姿を見て、少し前にネットで話題になっていた『奢り奢られ論争』を善はふと思い出していた。正直、自分が奢ることにも、女性に奢ってもらうことにも、割り勘をすることにも抵抗はない。ただ、奢ってもらって当然と言い切る女性は苦手だと善は思っている。目の前のカップルがどうなのかは知らないし、どうでもいいことだが。
伝票を持つ楓太の後ろで答えのない論争について考えていた善は、次の瞬間、息が止まりそうになった。
「もしかして、雫ちゃんじゃない。なんでいるの? すげー偶然じゃん?」
思わず楓太の背後からひょっこり顔を出し、善は会計にいた女性を確認した。
「え、久しぶりー。ほんと、すごい偶然だね」
少しだけ頬は赤いが、変わらない笑顔で雫が手を振った。
初めて入った店で、元恋人同士が会計で出くわす確率を考えてみる。数学が苦手な善に答えを出すことはできなかったが、恐らくそう頻繁に起こることでないのは確かだろう。
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