ホームランは打てない

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 一時期は毎晩19Hzの音を聴きながら、幽体でもいいから雫が現れてくれるのを願っていたこともあった。夢でさえ会うことができず、そのうちあまりに自分の行動が気持ち悪かったので止めた。  それなのに、どうして今さら目の前に現れたりするのだろう。神の気紛れには悪意すら感じる。 「雫の知り合い?」  三人で話すことに夢中になるあまり、会計をしていた連れのことをすっかり失念していた。  隣から声をかけたのは、三人よりも少し年上と思われる男だった。  中肉中背で、髭を蓄えた精悍な顔つき。どことなく竹野内豊を彷彿とさせる、数年後にはイケオジになりそうなタイプだった。 「雫」と呼んでいるあたり、彼氏であることは間違いないだろう。 「そう。二人は大学時代の同期なの」  楓太込みなので当たり前だが、雫は善のことを元カレとは紹介しなかった。いつになく、善たちによそよそしく接しているのも、彼氏に気を遣ってのことなのは明らかだった。 「へえ、それはすごい偶然だね」  誰だこいつらなどと怒るわけでもなく、彼氏の方も余裕の笑みを浮かべていた。
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