ホームランは打てない

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 風俗に行こうと誘う楓太を説得し、バッティングセンターへ連れて行った。  とてもじゃないが、卑猥なサービスを受けて紛らわせる気分にはなれなかった。 「へえ。善って野球上手いんだな。俺はサッカー少年だったから、野球は苦手なんだよ」  一打席終えると、楓太はバッターボックスの外に出て、まだプレイしている善を見ながら言った。 「上手いってほどじゃないけど、俺は野球少年やったからな」  言いながら、雫にも同じ説明をしたことがあったのを思い出した。  あれは確か、付き合って三ヶ月ほど経った頃だった。 『わぁ、リンダくん野球上手いんだね! 今、初めてリンダくんのことかっこいいって思ったよ』 『えー、今まで思ったことないんかい!』  小中と野球はやっていたが、経験者から見れば決して上手いとは言えないレベルだと自覚している。それでも、バットにボールが当たるだけで雫が大袈裟に喜んでくれるのがうれしくて、腕が痛くなるほど張り切ってしまった。  その日の帰り道、雫に『チュウしてもいい?』と訊かれ、付き合ってから初めてのキスをした。超がつくほど奥手だった善に、雫は苛立つことも文句を言うこともなく、気長に合わせてくれていた。
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