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緩やかに新年度が幕を開けた。
バイトの子は大学三年生が多かったため、四年生になったら就活に専念したいと何人か辞めてしまった。
年齢は下でも、自分より先輩のベテランだった子が辞めてしまい、店内業務は多忙を極めた。社員は接客だけしていればいいわけでもなく、閉店後に事務的な仕事もこなさなければいけない。まだ年間通して働いたことがない善には、どのタイミングでどれだけ食材や資材を発注すればいいのか掴めず、ミスをすることも多かった。
まだ新人なので、褒められることよりも注意されることの方が多いのは当たり前だが、自分でもどんどん心が疲弊していくのがわかった。
出向してから善の体重は四キロほど減った。休みの日以外はあまり食欲もなく、プロテインだけ飲んで寝ることが増えたので当然といえば当然かもしれない。年末年始に少し太ったのでちょうどいいと思わなくもないが、筋トレして絞ったわけでもないので、痩せたというよりはやつれた感じで不健康に見えた。
ただ、忙しい生活にもひとつだけ利点があった。それは、失恋したことを考える暇がないことだった。厳密に言うのならば “失恋” ではなく “雫” のことではあるが。
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