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アブダクション
「ギャーッ!」
一度寝たら近所で落雷しても起きないタイプのタフな心臓の持ち主ではあるが、その夜はすぐそばで悲鳴が聞こえて目が覚めた。
真っ暗闇で目を開けたが、当然なにも見えない。ただ、腕の中に誰かいることは確かだった。
何だこれ。思ってから血の気が引いた。
何だこれっていうか……誰だこれ?
一人暮らししている1Kの部屋には自分しかいないはずだ。
寝ぼけていた体が戦慄する。もしかしたら、生まれて初めて幽霊を見てしまうかもしれない。
叫び声と大きさからして、女と思しきソレは、なにやらごそごそと動いているようだった。死んでいる女ならもちろん、生きている女だとしても恐ろしい。どちらにせよ、いるはずのない女だ。
逃げるようにベッドから飛び起き、電気を点けた。
「う、うわー!」
ベッドの上に頭から血を流した女がいる。見た瞬間、情けなくも腰を抜かした。人間は想像以上の衝撃や恐怖を感じると、本当に腰が立たなくなるらしい。
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