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ホラー映画や怪談であれば、ここで気絶して次に目を開けたら朝になっている。現実もそうに違いない。固く目を閉じてみたが、まったく気絶しない。なんなら、眠気も覚めて視界良好。このままでは、目に焼き付いてしまう。
女は徐に立ち上がると、じわりじわりと自分に向かって歩いてくる。座ったまま金縛りに合っているかのように後退りさえできないでいると、女が目の前にしゃがんだ。
漏れてはいけない体液が少しだけ漏れた気がした。
「もしかして、リンダくん……?」
久々に聞くあだ名に、凍っていた背筋が解凍されていく。自分のことを「リンダくん」なんてふざけたあだ名で呼ぶ女は、この世に一人しかいない。
「まさか、クラゲっち?」
そこにいたのは、一年ほど前に別れた元カノだった。ほっとしたのも束の間、今度は大量の疑問符が善の脳を埋め尽くした。
「こんな夜中に頭から血出して何してんの? もしかして、幽霊?」
「はぁ? 幽霊なわけないでしょ! てか、頭から血が出てるの? なんで?」
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