アブダクション

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 今から四年ほど前。十九歳のとき、二人は出会った。同じ大学の同期だった二人は、約二年半交際していた。  お互いの存在に気づいたのは、大学の授業やゼミなどではなくバイト先のレストランだった。後から入った雫の名札を見た善は、彼女の苗字である『月海(つきみ)』を『海月(くらげ)』と読み間違い、雫は善の苗字である『梨田(なしだ)』をリンダと読み間違えたことから、大学でもバイト先でも会えば言葉を交わすようになった。  何度となく話すうち、お互いにオカルト系に興味があることがわかると、さらに二人の距離は縮まった。  交際経験はあるものの、女性経験がなかった奥手な善は、女性と関わることに苦手意識があったが、雫とは昔からの友達みたいに話すことができた。  二人でいるときの方が自然で、一人でいると不自然にさえ感じられた。オカルトだけでなく音楽や食べ物の趣味も似ていたが、何より驚いたのは誕生日が同じことだった。 「今年の誕生日は一緒にお祝いせえへん?」勇気を振り絞って誘った善に「わたしはもうそのつもりだったけど」と雫は笑って言った。
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