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「なんで来ちゃったのかわからないけど、こんな時間にごめんね。あ。ちなみに、リンダくんに未練があるとかじゃないからね。さすがに、もう一年ぐらい経ってるし」
これだけは伝えたいとばかりに、彼女は軽妙な口調で言った。
「それはわかってる。てか、今から帰るん? そんな血噴き出したまま?」
立ち上がって玄関へ向かう彼女の背中に問いかける。
「外暗いし、見えないでしょ。明るくなったら、怖いじゃん。こんな奴が歩いてたら」
「怖いとかいう問題じゃなくない? それ、痛ないん?」
「そう言われたら、痛い気がしてきた」
取ってつけたように、彼女は顔を歪めた。
「痛いこと忘れとったんかい」
奇妙奇天烈としか言いようがない状況ではあるが、善は真夜中に元カノの傷の手当てをすることになった。といっても、いつ買ったかわからない消毒液と安い絆創膏をあてがうことしかできないが。
座っている雫の前に膝立ちになり、髪をかき分けて傷を確認する。
「え、ヤバ。これ病院行った方がええんちゃう? 結構な傷やで」
血が苦手な善は、雫の頭の右側にあるそこそこ深い傷に怯んだ。途端に手に力が入らなくなった。
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