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育ち盛りとはいえ、満、食べ過ぎないようにしないと・・・大鞠の上で跳ねる小鞠を見て溜息が出た。梅子には、ダイニングの入り口近くに掲げてある写真を見るたび疑わしさが募る。
「葉子ちゃん、これホントにパパ?」
両親の結婚写真、と聞かされているが。シンプルなドレスを着こなして美人のママに寄りそうこの凛々しいタキシードの男の人が?ホントに?
「合成か加工か偽造でしょ?体の直径、違いすぎだよ。別人じゃん」
「合成でも加工でも偽造でもないから。そこで踊ってるのとおんなじ人だから。梅子も覚えてるでしょ、かすかには」
「一応、なんとなくは」
まだ私が満くらいのとき。パパは引き締まった腕で、ひょいと抱えて肩車とかしてくれた。そういう写真も残ってる、けど。
「今のパパにできると思う?てかどこに乗るの?丸~くつながっちゃって腕と肩と首の境目全然わかんないよ?きりっとした目も引き締まった口元もほっぺたに埋もれてるしさ。同じ人だって思う方がムリだよ」
「同じ人だって。カッコいい~って、お姉ちゃんがお義兄さんにほれこんだんだから。梅子が部長に憧れてるみたいに」
遠くを見るように、葉子は結婚写真に目を細める。
「お義兄さんはさ。お姉ちゃんを亡くした寂しさ紛らすのに食べに走っちゃったんだよね。近くに住んでたからってのもあるけど。泣いてばっかりで、ほっとけなかったの。赤ちゃんの満はもちろん、お義兄さんも、梅子も。で、しょっちゅう押しかけて、世話焼いて。そのうち、お義兄さんが料理に手をつけ始めて」
〝満くんのミルク飲んでる顔がほんとに、幸せそうでさ。梅子ちゃんも、ご飯食べるとおいしいね、って笑うんだよ。桜子さんの笑顔、思い出した〟
「あなたパパなのよ、しっかりしなさい、ってお姉ちゃんが喝入れてくれてる、って思ったんだって。美味しいって最高に人を幸せにするね、って梅子の笑顔に喜んでどんどん腕あげちゃって。料理はアタシの出番なくなって」
向けられた視線から、梅子は顔をそむけた。
「覚えてないよ。そんな小さなころのこと」
「まぁね。美味しい、サイコー!って料理にのめりこみすぎて、作る量も食べる量もどんどん増えちゃったし」
「増えすぎだよ。量も体重も」
「お姉ちゃんは四月生まれだから桜子だし、アタシは五月だから葉子なの。そんなもんよ?一度、お義兄さんの話、最後まで聞いてごらん」
葉子の言葉であっても、梅子は素直に肯けずにいた。
ともかく、この写真が偽造でないというのなら。
「パパ。文化祭見に来たいなら。百キロ痩せてよね!」
「オゥ!ノォ~ウ!」
「梅子」
ムチャぶりなのはわかっている。もとより、クリアできない条件だからこそつきつけたのだ。
「痩せられないんだったら、来ないで」
「わかった」
予想に反して、パパが立ち上がった。
「マイ・プレシャス・ドーターの晴れ姿を見るためなら。や~る~よ♪ダイ~エ~~ッット!」
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