海辺のデート

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 夜明け前、海辺の砂浜を歩く男女。瞬く星々、穏やかな潮風、静かな波の音も心地良く自然とロマンチックになる二人。こういう時って幸せの絶頂なのかもしれない。本当に二人はそんな気分だった。しかし、一つだけ水を差すようなことが気になり出した。何か匂うのである。最初、磯の香りかと思ったが、どうも違う。じゃあ、へどろ?確かに嫌な匂いだ。二人はへどろを避けるべく急ぎ足になった。けれども行けども行けども嫌な匂いは一向に消えない。それどころか匂いをはっきり意識すると、臭いと嗅覚するようになった。もうロマンチックな気分はぶち壊しである。水平線から朝日が顔を出す頃、二人は匂いの出所が足元であることに気づいた。で、何を踏んだのかとサンダルの裏を見てみると、気味の悪いぐちゃぐちゃした物が付着していた。 「うわあ!うんこだ!」 「やっぱりうんこだ!」 「暗闇に乗じて夜中にこっそり野糞する奴がいるんだよ」 「それを私たち仲良く踏んでたってわけ」 「そうなるけど、ずっと横に並んで歩いてたから別々のうんこだろうな」 「ってことは何、野糞する奴がかなりいるわけ?」 「ああ、一定数いる」 「そう分かってて何でここを歩くことにしたわけ?」 「ま、そんなことよりサンダルを洗おう」と言って男は渚まで来ると、海水でぺちゃぺちゃやり出した。 「上手くやらないと足に付いちゃうわよ」と言いながら女が近寄って来た。 「付いたら海水で落としゃ良いだけの話だよ」 「ほんとに汚い話ね」と言いながら女もやり出した。 「考えてみりゃ人間が長年に亘って汚してるんだよ。海って奴は」 「またそう分かってて…」 「そんなこと言ったって海は綺麗なイメージがあるし、産業廃棄物とかゴミで汚す奴らとは俺は違うし、そいつらと比べものにならない位、酷い政府が別していかんのや」 「またぁ、政府になすりつけて…」 「何言っとんや。核燃料デブリに直接触れた汚染水を安全基準値まで処理出来てないのに処理水と偽って垂れ流しとんやぞ」 「でも中国は前からもっともっと垂れ流してるけど別に問題ないじゃん」 「あのねえ、中国とか外国が垂れ流してるのは核燃料デブリに触れてない奴でね、基準値まで処理可能だし実際処理水として垂れ流してるから問題なくて日本のとは訳が違うんだよ。而もだ、核燃料デブリは取り出し不可能だし、核燃料を冷やすため原子炉建屋内に毎日数百トンもの水を注入して、それが核燃料デブリに触れて高濃度の汚染水になるし、原子炉建屋内に流れ込む地下水も建屋の地下の放射性物質に触れて汚染水になるから永遠に汚染水が生成され続け、定期的に基準値まで処理出来ない汚染水を垂れ流し続ける訳だ。そうなると薄めてあるから大丈夫と言えなくなるだろ。そもそも薄めてあるから大丈夫という理屈自体間違ってるんであってだねえ、海水で希釈してもALPSで除去出来ないトリチウムや炭素14が残され、ストロンチウムとか他の放射性核種も基準値を超えて残るんだ。つまり東電や政府や大手メディアは処理水にはトリチウムしか含まれてないように言ってるが、真っ赤な大嘘なんだよ」 「何で嘘つくの?」 「だから処理水の海洋放出を正当化するためさ。で、ほんとは汚染水を貯めておくスペースが福島第一原発の敷地内にも近隣地域にも十分あるのに新たに貯蔵施設とか造ると莫大なコストがかかるからないと偽って一番安価で安易で危険な海洋放出に踏み切ったんだ。堪ったもんじゃないのはまだまだ先がある俺たち若人だよ。きっと海産物を安心して食べられない時がやって来るぜ」 「何で?」 「何でって放射性核種は海洋生物に取り込まれ、食物連鎖の最下層に位置するプランクトンや藻類からマグロのような大型魚類へと移行する過程で生物濃縮され、食物連鎖の最上層に位置する人間が摂取する羽目になる訳で誰しも被害者になる可能性危険性が年月を経るに連れて高くなって行くんだ。何せ放射性核種によるベータ線被曝は皮膚や衣服が放射線を遮る外部被曝とは訳が違って一度汚染された魚介を体内に摂取してしまったが最後、体内細胞は保護されずDNAの損傷やRAの損傷など生物の存続や健康にとって甚大な害を被ることになるんだ」 「何だかしんないけどこわ~」と言いながら女はぶるぶるっと身震いした。それから二人はうんこを洗い落としたことだし、海を然も汚い物として海辺を歩きたくなくなるのだった。
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