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短く簡潔に釘を刺してくるこの堅物そうな騎士もまた昔から相も変わらずレグルスに厳しい、ヴィエルが甘い飴ならこの騎士アルテルフは鞭である。
アルテルフ・トロリウス
我がデネボラ帝国が誇る騎士団団長、魔法騎士団とは違い剣の腕と己の身体能力が優れた者が多い。
彼もまた若くして帝国騎士団に入団した騎士だが、昔から真面目で厳格な性格をしている。表情も大体は眉間に皺を刻んでいることが多く寡黙で口数も多くはないため勘違いされやすいとボヤいているのを聞いたことがあった。
それに加え綺麗な男性的な顔立ちのためよりニコリとも笑わない表情に迫力が増すのだろう、短く整えられた黒髪を後ろに撫で付け切れ長のゴールドの瞳が少しだけきつい印象をあたえる、瞳の色素が薄いらしく精神状態によって瞳の色の濃度が変わる体質らしい。
魔法騎士団とデザインは同じだが対になる漆黒の団服は彼の厳格なイメージにとても合っていて、鍛え抜かれ隆起した筋肉が厚手の布地を押し上げている。
レグルスが本格的に第一皇子としての勉強を始めた辺りからこの二人の騎士はずっと護衛兼教育係として側に仕え続けている。出来るだけレグルスに歳の近い教育係を付けたいという皇帝陛下のお心だった、歳が近いと言っても十は離れているのだが。
剣技や体術、護身術などはアルテルフが担当し、魔術やマナーなどはヴィエルが受け持っていた。勿論勉学等は専門の教師が付いていたが一度で飲み込めなかった勉強等はこの二人に教わりなおした事も少なくは無い。
彼らは貴族の出身である為ある大抵の教養は持ち合わせていた。
今もまたレグルスを挟む形で佇むこの二人は帝国騎士団と帝国魔法騎士団の団長にまで登りついて忙しいにも関わらず護衛を続けてくれている。一度忙しいだろうから護衛の頻度を減らしてもいいと話を持ちかけたことが有るが、寧ろ自分たちが何かしたのではないかと勘違いされた挙句それ相応の処罰をと迫られたため、レグルスも全力でそれは無いと否定し護衛も続けてもらっている。
レグルスも話し出しに言葉が足らず二人には気をもませてしまった、その後聞いた話では騎士団も魔法騎士団も副団長が優秀で信頼出来る者たちなので護衛任務の間は任せても問題ない、それに帝国の騎士団を纏めているのは皇帝陛下なのだから寧ろ第一皇子の護衛につけることは騎士として誉れであると。
また常に護衛について貰ってはいるがこの様な謁見等がない場合は交代制である、たまに二人に外せない任務がある場合はそれぞれの団から数人騎士を出しているので、さほど彼らも現状困ってることは無いらしい。
一度気を引き締める為、長めに息を吐き出す。ヴィエルが言うとおり今から訪れる聖女様は少し、ほんの少し気の抜けない相手なのは確かなのだから。
深呼吸を繰り返し気を落ち着ける、天井まで大きな窓が伸びるここは謁見の間である。窓から差し込む光は室内の絢爛な装飾を煌めかせ、明るく室内を照らしていた。
大きな両開きの扉からは幾本もの柱が建ち並び、その柱一つ一つも繊細な彫刻があしらわれている。そして数段上がった最奥には壁に帝国の旗が掲げられている。それを背に皇帝の為だけの玉座が鎮座していた。
レグルスが今腰をおろしているのもその玉座であり、ヴィエルとアルテルフはその数歩後ろに控えこの謁見の間でただ一つの入り口である大扉を見据え続けた。
それはまるで背後に掲げた国旗の獅子と剣に見紛うほど洗練された佇まいで衛兵達は目を奪われてしまいそうになるが横目でちらりと見るまででとどまる。
「失礼いたします!殿下、聖女セシル・ミュゲット様が到着されました」
「あぁ、通せ」
扉の前を守っていた衛兵が、扉の間から素早く身体を滑らせレグルスに聖女の到着を告げる。その知らせに表情を変えることはなかったが内心緊張が高まったのだろうとその場にいる者達は察した。
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