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「ホラホラ雪だよ。庭を駆け回ってごらんよ」
今年もクソ猫が俺を揶揄う季節がやって来た。後世の犬という犬を大雪の日に外に出させる歌詞を書いたのは誰だこの作詞家は。作者不詳では済まされないぞ。
「猫はこたつで丸くなってれば良いけど、犬サマは天真爛漫でいいことだねぇ」
嫌味たっぷりなクソ猫は俺よりも後から来たくせに偉そうだ。俺は寒いのが嫌いだから、雪の日は絶対に外には出ない。
だが俺は耳が良いから知っている。
かつて近所の家の子供に飼われていたクソ猫が子猫の時分に犬のように外に出されていたことを。大雪が降ると、幼子の無邪気さで「一緒に遊ぼう!」と引っ張りだされたあの日々のことを思い出さずにはいられないのだろう。泣き叫んで居るのを喜んでいると勘違いされたらしく、雪の降る日は毎日外に出されて喚いていた。
「......。」
その家の引っ越しの際に「動物に詳しいから」という理由でクソ猫を預かることになった今の俺たちの飼い主は決してそんなことはしない。
俺はクソ猫の首輪を優しく噛んで雪の上に転がした。
「寒いッ! 何をするんだい」
「たまには思い出に浸りたいかと思って」
喚くクソ猫だが、心なしか笑っているようにも見える。ひとしきり俺と駆け回った後、こう呟いた。
「......もうこの歳だ。雪に触れることはもうないかと思っていたが、案外悪くないかもしれにゃいな。最後の思い出としてはまずまずだ」
白い雪まみれになった俺たちが家に入ってあたたまろうかとペットドアに向かおうとしたとき、雪掻きに出ていた飼い主がちょうど戻って来た。
「動物には個体差があるというが、雪の日に喜ぶ猫も居るのか。よし、今度から二匹共外に出してやるからな」
ーーおわり
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