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ジャックは意気揚々と成果を掲げて帰宅した。
「父ちゃん! これ、金になる⁉」
「おお、よくやった!」
父が褒めてくれるこの瞬間が、ジャックの唯一の喜びであった。
父に褒められるためならなんでもする。おそらく、人殺しだってできるだろう。
ただ、今はまだ子供。いずれその時は来るかもしれないが、今は盗みがやっとである。
誇らしげにカバンを渡した。
父は、ウキウキとカバンを開けて中を見ると、みるみるうちに表情が変わって怒り出した。
「おい! 何だ、こりゃ!」
慌ててジャックもカバンを覗き込むと、そこには一冊の分厚い本が入っているだけだった。
「あ、あれ? あれ? 金塊じゃないの? とても重かったのに」
「馬鹿野郎! 本なんて食えるか! お前はメシ抜きだ!」
「ウワアアアア!!」
「うるさい!」
本で頭を殴られたジャックが号泣して、さらに父を怒らせる悪循環。
そこにネッドが帰宅して、修羅場にひるんだがすぐ気を取り直して仲裁に入った。
「父ちゃん、俺がジャックの分も稼いできたから、許してあげて!」
「おう、さすが長男だ」
少しだけ父の機嫌が直り、なんとか昼食をとることが許された。
昼食は、ライ麦パン一切れとチーズひとかけら。それでも、口に入ると入らないとでは雲泥の差だった。
「ネッド、ありがとう」
ジャックは、父に聴こえないよう小さな声で言った。
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