ジャック

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 ジャックは、一人になると、手元に残された盗んだ本を何となく眺めた。  見たことのない羊皮紙で作られたそれは、美しい装丁で美術品としての価値もありそうだった。  中には美しいイラストとそれに対する解説が書かれているようだったが、ジャックは字が読めなかった。  この家の人間は全員字が読めない。いや、周囲の人たちだって同じようなものだ。  学校は、教会併設の聖堂附属学校があるが、そこに通うのは生活に余裕のあるお金持ちや貴族の子息だけ。労働者階級の子供が通うことはなかった。  夜な夜な、ジャックは月明りで本を眺めた。  地面と太陽、月、星。それらが弧を描いていたり、空から雨が降っていたり。それにより、草木が芽吹き、花が咲き、実がなるなど、時の流れが描かれていた。  教会で見る宗教画とは明らかに違う。  なんとなく魅かれていく。不思議な力がその絵からは感じられた。  毎日眺めている内に、どうしても書いてあることを理解したくなった。 「行ってみようかな……」  父に字を習いたいと言ったところで、殴られるだけだろう。  勉強などバカがすることだと、いつも豪語している。  家族をバカだと蔑むくせに、自分の言葉の矛盾にも気づかない。  そんな父の子だから、自分も同じだと半ば諦めていた。 「でも……」  大学に行きたいとか大それたことは考えていない。  この本を読めればそれでいい。  ジャックは、本を読みたい一心で、翌日から父の目を盗んでは聖堂附属学校に足を向けた。
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