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ネッドの遺志もあって、ジャックは、学校に通い続けた。
校長の計らいで学力試験を受けると、とても優秀な成績を収めたので教職員一同驚愕した。
「君はこのまま勉強を続けて、大学に進みなさい。首席になれば学費免除になる」
校長から大学進学まで勧められたが、ジャックには父のことがあった。あの父が進学を許すはずがない。
「いえ。そこまでは考えていません」
「進学すれば、君なら官吏試験も受かるだろう。気が変わったらいつでも相談しなさい。推薦状をしたためよう」
校長は、ジャックの才能を非常に惜しがった。
ある日、町の掲示板が目に留まった。
字を読めなかったジャックは、今まで気に留めたことがなかった。その日は、何故か気になった。
いくつかあるうちの一つにジャックは目を留めた。それを読んだ途端、心臓が鷲掴みされたように苦しくなった。
――どうか羊皮紙で作られたあの本を返してください。
あなたにはそれだけで分かるでしょう。
あれはとても高価な本ですが、
希少な装丁なので売れば必ず捕まります。
無傷で戻してくれれば、あなたを罪に問いません。
あなたが誰かも詮索しません。
どうか大学に匿名で届けてください。
それだけでいいのです。
ローマ大学 ルキウス――
それは、ジャックが本を盗んだ日から張り出されていたものだった。
本の返還を切望するルキウスの必死の訴えがジャックの胸を打った。明らかにあの紳士が張り出したものだ。
(返しに行こうか……)
さんざん悩んだが、自分を変えてくれたあの本をどうしても手放すことが出来なかった。
罪悪感に押しつぶされそうになったが、「俺のような奴が何をいまさら」と、掲示板から目を逸らして通り過ぎた。
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