2人が本棚に入れています
本棚に追加
小さい頃、雪が降っていた次の日はいつも腹を壊していた。
それはなぜか、今ならわかる気がする。
「たぶんかき氷にして食ってたからだわ」
「アホじゃね?」
決まってかき氷を食べていた冬の思い出。
懐かしい。おいしいおいしい、かき氷食べ放題だぜとかほざいていた。家の前から通学路まで、積もった雪を片っ端から食べていたので、次の日学校では「雪を貪るやべーモンスターがいる」だとか都市伝説が誕生していた。それ多分私だ。すまん。
それでも懲りず、小学生の間は毎年、毎年そんなことをしていた。母に見つかることはついぞなかったが、もし見つかったら怒髪天を衝く母に叱られていただろう。
罪悪感などないに等しかったが、それだけは想像がついた。そのためずっと隠していた。
けれどいつからか、そうやって冬の日にかき氷をつくることはなくなっていた。
だからこれはただの思い出話。
「なあその手に持ってるのなに……?」
友人は私の手元を見ていた。
私は二つのカップを持っていた。氷が乗った、可愛らしい柄のカップである。
そばには豊富な種類のシロップが赤、青、黄色と並んでいる。
外では雪が降っていた。
「え?」
「ねえ待って。まさかそれ……食えって? おい冗談じゃないぞ」
友人は顔を引き攣らせる。
「あはは、安心してよ」
私は笑って見せた。
そして、器の一つに赤いシロップをかけ、友人にはもう一つのカップを渡す。友人がシロップを選んでいる間に、私はひとくちかき氷を食べた。
甘い味がする。罪悪感みたいで、とっても美味しい。
雪の冷たい味を思い出す。あの味は甘みなんて全くなかった。ただの雪だ。ただの味のしない氷だ。
けれどそれが美味しく感じた。今考えたらびっくりするほど、美味しいとと思っていた。
「そういやテスト勉強順調?」
「ん〜……?」
「何だその反応は。ちゃんと数学やっとけよ、この間の中間で赤点とったろ」
「てへ。ねぇねぇ、勉強教えて」
「はいはい」
どうしてあのとき、あんなに夢中になれたのかな。
今の私は、それがあんまりわからない。
最初のコメントを投稿しよう!