かき氷を食べるアホ

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 小さい頃、雪が降っていた次の日はいつも腹を壊していた。  それはなぜか、今ならわかる気がする。 「たぶんかき氷にして食ってたからだわ」 「アホじゃね?」  決まってかき氷を食べていた冬の思い出。  懐かしい。おいしいおいしい、かき氷食べ放題だぜとかほざいていた。家の前から通学路まで、積もった雪を片っ端から食べていたので、次の日学校では「雪を貪るやべーモンスターがいる」だとか都市伝説が誕生していた。それ多分私だ。すまん。  それでも懲りず、小学生の間は毎年、毎年そんなことをしていた。母に見つかることはついぞなかったが、もし見つかったら怒髪天を衝く母に叱られていただろう。  罪悪感などないに等しかったが、それだけは想像がついた。そのためずっと隠していた。  けれどいつからか、そうやって冬の日にかき氷をつくることはなくなっていた。  だからこれはただの思い出話。 「なあその手に持ってるのなに……?」    友人は私の手元を見ていた。  私は二つのカップを持っていた。氷が乗った、可愛らしい柄のカップである。  そばには豊富な種類のシロップが赤、青、黄色と並んでいる。  外では雪が降っていた。 「え?」 「ねえ待って。まさかそれ……食えって? おい冗談じゃないぞ」  友人は顔を引き攣らせる。 「あはは、安心してよ」  私は笑って見せた。  そして、器の一つに赤いシロップをかけ、友人にはもう一つのカップを渡す。友人がシロップを選んでいる間に、私はひとくちかき氷を食べた。  甘い味がする。罪悪感みたいで、とっても美味しい。  雪の冷たい味を思い出す。あの味は甘みなんて全くなかった。ただの雪だ。ただの味のしない氷だ。  けれどそれが美味しく感じた。今考えたらびっくりするほど、美味しいとと思っていた。 「そういやテスト勉強順調?」 「ん〜……?」 「何だその反応は。ちゃんと数学やっとけよ、この間の中間で赤点とったろ」 「てへ。ねぇねぇ、勉強教えて」 「はいはい」  どうしてあのとき、あんなに夢中になれたのかな。  今の私は、それがあんまりわからない。
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