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「そうよ、そうよね!」
私は大きく手を打った。
「懐かしいよな。そのときは雪の予報が出てたけど、常にトランクにチェーンを用意していたから安心してたわけだ」
「ね。なのにねえ」
私も彼も、笑ってしまった。
かつてよく一緒にドライブしていた頃、急に雪がひどく降り始めたときの話だった。
「ゴム製のチェーンは劣化するんだな……って教訓にしたわね」
「そうそう。まさか装着しようってときにタイヤ全体に届かないほど縮んじゃってたとは」
「え? 届かなかったんだっけ? 二人で引っ張って切れちゃったんじゃなかったっけ?」
私がそう言うと、彼は一瞬笑みが止まり、「……そうだったな」と小さく言った。大して暑くもないのに、汗を拭う。大柄な割に気の小ささが見え隠れ。
「まあ思い出なんてそんなものよね。人によって印象が違う」
そう笑ったら、彼もまた笑顔になり、二人して残った紅茶をがぶ飲みした。
久し振りに再会した元カレ。結婚する予定だった。けれど色々あって別れてそれっきり。
けど思い出なら山ほどある。
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