16話:温かい我が家が待っている?

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「本日はお疲れになったでしょう。ただいま紅茶をお持ちいたします」 「お心遣いありがとうございます、ジェンさん」 「……マリア様。我々は旦那様とマリア様に仕える身。そのように畏まる必要はございませんよ。  お近付きの印に、是非私のことは“爺や”とお呼びください。そちらの方が、緊張せず呼べるでしょう?」  執事ジェンの言葉に、マリアは一瞬驚いて、すぐに思わず笑った。これが狙いなら、ジェンの作戦は大成功だ。マリアは一気に肩の力が抜けて、「そうだね、宜しく爺や」と自然な笑顔で返すことが出来た。マリアが自然に笑って、メイド達がホッとしたようにしている。どうやらマリアの態度は彼女達にとってあまり好ましいものではなかったらしい。 「皆も、よろしくお願いね」 「はい、誠心誠意尽くさせていただきます」  使用人達の挨拶が終わると入れ替わりに、ティーセットを乗せたカートを押したメイドが入ってくる。彼女の入れてくれたストレートティーを飲めば、マリアは漸く一息つけた。  豪華なお出迎えをされて戸惑ったが、歓迎されていると受け取っていいということだろう。ならそれでいい。マリアは大歓迎だ。少なくとも針山の上で生活するよりは歓迎されてチヤホヤされている方が良いに決まっている。  メイド達が退室してから、マリアは紅茶を置きキョロキョロと周囲を探る。 「あの、メリー——アタシの侍女はどこに居ますか? アインさんに頼んで引き続き侍女として雇えるよう計らってもらったはずなんですけれど……」 「彼女なら、街に買い物に出ております。『マリア様にはこれが無いといけない』と言って。どうやらこだわりの茶葉があるらしく、それを買いに行くと……」 「あぁなるほど。メリーらしいや」  マリアは小さく笑い、侍女がこの場に居ない理由に納得した。メリンダの性格ならマリアが屋敷に着いた時点でマリアに飛び付いて離れようとしなかっただろうにそれが無いから不思議だったのだ。一抹の不安を覚えていなかったと言えば嘘になる。だがそれも、爺やの言葉で解決した。  きっと今メリンダは、マリアの好きなロイヤルミルクティーを作るための茶葉を買いに行っているに違いない。あの子はいつも同じ茶葉で同じように煎れてくれる、それがマリアを一番落ち着かせると知っているから。きっと帰ってきたらすぐにマリアの好きな冷たいロイヤルミルクティーを用意して部屋に来てくれるはずだ。メイドが運んでくれたストレートティーは美味しいが、マリアはやはりミルクがたっぷり入ったロイヤルミルクティーが好きである。
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