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「お前、茶葉にこだわりとかあるのかよ」
リーロンが意外そうに言う。マリアは小さく笑い、「メリーが煎れる紅茶にだけね」と教える。リーロンは「ふぅん」とだけ言って会話を打ち切った。爺やは会釈をして部屋を出て行った。
部屋に、微妙な沈黙が流れる。マリアはただメリンダの帰りを待っていたし、リーロンはそんなマリアを見ていた。やがてラウドが遠慮がちに部屋をノックしリーロンを呼びに来たため、二人は別れマリアは引き続きメリンダを待つ。
メリンダはリーロンが部屋を出てすぐ、見計らったように部屋に入ってきた。入ってくるなりソファーに座るマリアに抱きつき、足元に縋り付いてドレスに顔を埋め「マリア様〜!!!」と頬擦りをする。まるで小型犬のような反応にマリアはクスクスと笑い、「おかえりメリー」と彼女の頭を撫でた。
「ねぇメリー。アタシ今日疲れちゃった。大聖堂まで行ったのよ、馬車に揺られて三時間。とっても疲れちゃった。メリーの美味しいのが飲みたいなぁ」
マリアが甘えるように囁けば、メリンダは「すぐに用意しますね!」と元気良く立ち上がる。マリアは部屋を出て行ったメリンダの反応に安心した。
良かった。ここでもメリンダは“メリンダ”のままだ。マリアは彼女がいれば“マリア”でいられる。彼女を連れてこれてよかったと、心の底から安心した。彼女が着いてきてくれて良かったと、何度も心の中で繰り返した。
婚約をした。実家から解放された。マリアはこれから進み続けなければならない。泥舟を脱することができたのだから、あとは広い海を陸に向かって泳ぎ続けるのだ。そして陸に辿りつけた時、マリアは以前のマリアより成長出来ているはずだ。
マリアはゆったりとロイヤルミルクティーを待つことにした。ふと、どうしてリーロンは自分を婚約者に選んだのだろうかと疑問が今更ながら再度浮かんだが、すぐに思考は別のことに移ってマリアは長考することは無かったのであった。
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