17話:明日は入試だ憂鬱だ

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17話:明日は入試だ憂鬱だ

🐰  時は流水のように流れた。婚約者としてマリアがリーロンの所有するカントリー・ハウスに住処を移してから、あっという間に一週間である。  一週間の間で、マリアはすっかり屋敷に馴染んでいた。白い壁を傷付ける心配をしながら廊下を歩くことも無くなったし、自分のための部屋を好きに使うことが容易になった。  ウォークインクローゼットの中にはこれでもかとドレスがしまわれており、マリアはそれに苦笑したが、着るものが多いのは良い事だと感謝する。  リーロンと婚約したということで数人の人間から茶会の誘いが来たが、全てリーロンが断ってくれた。「お前は入試に集中しろ」というのがリーロンの言葉である。大変有難いのでマリアはリーロンに深く感謝し一週間の間を勉強に明け暮れた。  屋敷の裏手には花々が咲き乱れる庭があり、その中のガゼボにはティータイムに使うためのテーブルと椅子が用意されていた。マリアはラウドと共にそこで筆記試験の勉強をしたり、剣を交えて実技試験の予習を行ったりもした。ラウドはまだマリアとの距離を測りかねているようだが、勉強している間や剣を交えている間は余計なことを考えずに済むのか、その間の彼は非常に真面目な好青年だった。リーロンが傍に置きたがるのもわかるというものである。 「あぁ〜ダメだ……筆記試験が難関すぎる……」 「でも前の模擬試験より随分点数が上がってるじゃない。このままいけば大丈夫よ」 「どうだろうな……オレは殴るばっかで能が無いから、受かる気がしねぇよ」 「リーロンの騎士がそんな後ろ向きでどうするの? これも何かの縁だし協力するから最後まで全力を出し切りましょうよ」  思わず弱音を零してしまうラウドを、マリアは励まし応援する。実際にラウドは一週間前はてんで勉強が出来なかったが、最近はモンタが送ってくれた対策ノートを一緒に見て学習したお陰で少しづつ勉強というものを理解し始めているようである。その証拠に彼の模擬テストの点数はみるみるうちに上昇して行っている。きっと地頭は悪くないのだろう。その頭のリソースを勉学に割いていなかっただけで。  マリアもそんなラウドと向かい合わせに座り、コツコツと勉強に励んだ。そして部屋に帰ればメリンダのミルクティーが待っている。素晴らしい日々だ。母親のヒステリーに付き合う必要も無く、父親の馬鹿な行動に頭を痛めることも無い。屋敷の人間は皆洗練された者ばかりで下女達はマリアに気配を察知させないで仕事をするし、唯一マリアと接点を持つ執事長も非常に仕事の出来る男であった。この屋敷の使用人を集めたのがリーロンなのかリーロンの側近の誰かなのかは知らないが、感謝感激雨あられである。
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