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夜、マリアが{灯}の灯りを頼りに屋敷の中を歩くこともリーロン直々に許容されていた。屋敷の全体像を把握しておきたいと申し出れば、驚くほどあっさりとリーロンはそれを了承した。ついでに屋敷を覆う森の中に一本木を植えても良いかと問えばそれも許可された。有難い限りである。マリアは約束通り、{木}から貰った苗木を森の中央に埋めた。樹木の魔神が自ら生み出したその苗木は三日で立派な大輪の樹として成長し、マリアはその木に“エルドラド”の名をつけて、森全体の無辜の樹木を管理する役目を与えた。マリアの魔力が森全体に広がったことをリーロンは察しているだろうが、まだ何も言われていない。様子見をされているのだろう。エルドラドの上に用意したツリーハウスの中が綺麗に整ったら、彼をそこに招待する予定である。実家にいた頃にもツリーハウスは一つ用意してあり、いざと言う時の安全地帯として管理していた。ツリーハウスの整備にはメリンダも協力してくれているので、お披露目となる日ももう少しである。
そんな日々を過ごして一週間、いよいよ明日が入試試験当日という日の晩に、マリアは自室の書き物机で明日のテストの最終準備をしていた。湯浴みが済みあとは寝るだけの状況までお膳立てしてもらってから、武器の手入れを一通りし、魔神達に一人一人挨拶をして、そして筆記テストの勉強に戻る。
そんなことをしていれば、コンコンと部屋がノックされる。
「はい、どーぞ」
メリンダが丁度メイド長に呼ばれて居なかったので、マリアは返事を返しそのまま机に向いていた。てっきりメリンダが帰ってきたのだと思ったのだ。
「捗ってるか?」
だが部屋の外からしたその声がリーロンのものだと気付き、すぐに顔を上げる。慌てて扉を開けば、彼は部屋の中に押し入るように入ってきてソファーに着席した。マリアはそのままリーロンの傍まで駆け寄る。リーロンの後ろから本日の側近らしい青年も入ってきていたが、マリアは構っている余裕はなかった。
リーロンは夜用のガウンを着てマリアの部屋を訪れた。緩い室内着だと、彼の童顔が際立つ。キリッとした軍服の服を着ていると大人っぽい顔立ちに見えるのに、こうしていると年相応と言った感じだ。
「驚いた……どうしたの?」
リーロンは意味無く部屋を訪ねて来ることはないため、マリアは不思議がって尋ねる。リーロンはつまらなさそうな顔をしながら、「入試、明日だな」と話題を切り出した。
「準備は終わってるのか?」
「えぇ。今丁度武器の手入れを終えて魔神達にも挨拶し終えたところ」
「実技じゃねぇよ筆記だ。てめぇの実技に問題が無ぇことは知ってる。おつむが弱いのもな」
「失礼ね! 心配しなくたってモンタが対策ノート作ってくれたから問題ありませーん。凄い勉強捗ってるし、ラウドくんだってあのノートのおかげで二人で出し合った模擬テストの点数ぐんって上がったんだから」
少し自慢げに言えば、また「ふぅん」である。リーロンはマリアに話を振るわりに返事がてきとうなことが多い。相槌を返すだけ上出来だと気にしないことにした。実家の人間は相槌すら返さなかったのだから。
「あ、モンタっていうのはアタシの幼馴染でね?」
「知ってる。アーフォルンの長男坊だろ」
「そう! ……なんで知ってるの?」
「婚約者の身辺関係ぐらい洗っておくのが常識だろ。アーフォルン家自体勢力を上げていっている伯爵家として有名だからな」
「へぇー……公爵家のお坊ちゃんは大変ね」
リーロンに対して全くのNO知識で顔合わせに挑んだマリアは他人事の様に感心し、リーロンに呆れられた。
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